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Hazelnut latte

with a tsp of honey

テレ朝版『そして誰もいなくなった』:女性の医者と引き換えに失ったもの

ネタバレ注意
for BBC版『そして誰もいなくなった』(2015)
for テレ朝版『そして誰もいなくなった』(2017)

2015年にBBCがドラマ化したばかりなので、脚本や演出の面ですごく苦労した作品だと思う。分かりやすい主な変更点は、たとえばBBC版が戦前のイギリスを舞台にしているのに対して、テレ朝版は現代の日本(21世紀の八丈島周辺)に変更された他、十人の兵隊の詩が民謡風の歌詞になるなど、『かまいたちの夜』や横溝正史の小説を彷彿とさせる翻案がなされている。また、洋館のオーナーに自然回帰主義者という設定を加えることで宿泊者の携帯電話・タブレット端末を回収し、都会との交通手段・連絡手段を持たない絶海の孤島として兵隊島を密室に仕上げたのも面白い。(単に私好みの設定だから褒めてる、というのもある。)ドラマを見ながら「自然回帰」と「暖簾」をきっかけに、戦前の民芸復興運動について考えていたので、額に入った十人の兵隊の詩が棟方志功木版画っぽいな、と本筋に関係ないところで一人うきうきしていた。

人物描写もけっこう淡々としていて、日本のドラマでよくある(と私が感じているだけかも?)異様に脂ぎった感情表現や犯人の長ったらしい自己弁護、CM直前に見たシーンをCM直後にまた見せられるうんざり感が極力排除された、イライラ感の少ない構成になっていたように思う。終盤の捜査編で探偵役を務める相国寺警部(沢村一樹)はコミュニケーション能力に難がありまくりけど、さくさく情報収集して一気に事件を解決してくれるので、気楽に見ていられた。前もって犯人や登場人物の退場する順番を知っていたのも、のんびり見ていられた一因かも。

それから、登場人物のキャスティングも楽しんで視聴できた理由のひとつだ。日本のサスペンスもの・ミステリーものに馴染みがある人は、特にそうだと思う。いままで数々の難事件を解決してきた仲間由紀恵橋爪功渡瀬恒彦が殺人者として殺し、被害者として殺される役なんだから、テンションが上がらないわけがない。十津川さんがシリアルキラーなんだよ? 信じられるか?? 橋爪さんが仕えている大奥様を窒息死させるシーンは、思わず「キョートにっぽー!」と叫んでしまった。ダメよ杉浦さん…あんなにたくさん京都の迷宮を案内してきたじゃない……キャップがどんなに嘆くか……と嘆きながら甘納豆食べてました。ありがとう、テレ朝。ありがとう、監督。ありがとう、脚本家。御社のキャスティングは大成功です。

BBC版との比較でもうひとつ面白いと思ったのが、医者が男性から女性に変更されてるところ。しかも超whimperingでヒンヒン泣きわめくドクター・アームストロング(Toby Stephens)が、一言も弱音を吐かない肝の座ったドクター・神波(余貴美子)に変わってるのね。ヒステリックな女医に改変されるのかな…と不安だったので、これにはちょっと驚いた。(若干「名誉男性」っぽくもあるけど…)

改変といえば、元刑事のブロア(Burm Gorman)が男性の同性愛者を監房で殴る蹴るの暴行の末、殺人を犯した(原因:ホモフォビア)のに対して、久間部堅吉(國村隼)が法廷で偽証&被告人が死刑になるよう仕向けた(原因:被告人の妻をDVから守るため)のはなんでだろう。美談になっちゃっててなんだかなぁ、というのと、男性の同性愛者&ゲイ差別によるヘイトクライム殺人を登場させるのに抵抗があったのか知らん、と疑ってしまう。

というのも、星空綾子(大地真央)が隠れ同性愛者で、お手伝いさんの女性に片思いしてるらしいってことは匂わせてるんですよね(指輪のシーンとか)。で、星空綾子はそのお手伝いさんが妊娠してると知って(相手の男は不明)、医者に頼んで本人の承諾なしに中絶手術を受けさせる。お手伝いさんは星空綾子に、私は子供を産みたかったのに…と怒り、最終的にこの事を苦にして自殺。BBC版はというと、隠れ同性愛者のブレント夫人(Miranda Richardson)が戦争孤児の少女に片思いをしてるんだけど、妊娠してるのが発覚して少女を家から追い出したところ、少女は他に頼れる大人はいないし自力で解決もできないし…ってんで線路に飛び込んで自殺する。星空綾子もブレント夫人も「赤ん坊殺しのレズビアン」(ヘテロセクシャルなカップルによる"愛の結晶"を壊したゲイの女性)って意味では似てるんだけど、うーん。

ゲイ男性に対するヘイトクライムは、ヘテロ男性がヘテロ女性を窮状から救うためのヒロイックなエピソードに改変するのに、ゲイ女性がヘテロ女性(&赤ちゃん)を見殺しにしたことは、ゲイ女性が赤ちゃん(&その母親/ヘテロ女性)を殺したエピソードに改変するのね……と、ついうがった目で見てしまった。BBC版は戦争孤児の少女(&その赤ちゃん)に重点を、テレ朝は胎児(&お手伝いさん)の順番に重点をおいてるので、こういう違いが生まれるのかも。ブレント夫人が(一応)敬虔なクリスチャンだってことも、関係してるかもね。

BBC版ではブレント夫人以外に、元刑事のブロアも同性愛者なんじゃないの? って説があるんだけど、テレ朝版の同性愛者は星空綾子だけで、久間部が同性愛者であることを示唆する描写はまったくない。なぜだテレ朝…なぜ久間部がゲイ男性である可能性も、彼のホモフォビックな跡形もなく消し去ったのに、星空綾子はまんま同性愛者なのだ…。「原作の人物像を優先したからだ」と言われればそれまでなんですが、それ言ったら原作のブレント夫人も同性愛者じゃないからな! 原作のブロアなんて賄賂貰って偽証した結果被告人の妻子が母子家庭になって苦労するエンドだからな!

テレ朝版は女性の登場人物を一人増やした代わりに、同性愛差別が一層強烈になりました、というおはなし。